【自治体】にぎやかな過疎の町 美波町 AIの導入で人手不足を解消

美波町役場の導入事例

大地 辰弥 氏

美波町役場
デジタル機器推進室 デジタル整備部門

譽田 勇斗 氏

美波町役場
デジタル機器推進室 情報システム部門

https://www.town.minami.lg.jp/

自治体行政機関

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人口わずか6千人の小さな地方自治体である美波町は、人口減少による人手不足と資金的な制約の中、Azure OpenAIを活用した生成AI基盤を内製で構築。チャットボット「カレンちゃん」の開発やプロンプト集の整備など、複数のAIと対話する新しい行政運営のかたちを実現しました。

100%

職員が業務改善の可能性を実感

約62.5%

大幅に改善できそうと回答

内製

Azure OpenAI基盤を自ら構築

人口がわずか5千人の小さな地方自治体である美波町は、人口減少による人手不足と資金的な制約の中、緊急な行政の効率化が求められていました。そのような中、美波町は、世田谷区役所のAI導入事例を見て、株式会社クラウドネイティブに問い合わせをくださいました。

他の地方自治体と同様、美波町は人口減少と財政難の危機感から、将来の行政管理に課題意識を持っていました。この要件を満たすため、Azure OpenAIを使用して、自分達のAzure環境上で生成AIの基盤を構築する事を検討していらっしゃいました。ベンダーロックインを避け、データがブラックボックス化しない体系を自立して構築したいという想いがありました。

左:大地 辰弥氏、右:譽田 勇斗氏
左:大地 辰弥氏、右:譽田 勇斗氏

弊社へお声掛けいただいた当時のこと

弊社へお声掛けいただいた当時のことや心境等お聞かせください。

大地氏

少人数でICT環境を運用する中、システムやアカウントを連携させながら、デジタル整備を進める必要がありました。2019年には全庁的にMicrosoft 365を導入し、オンプレミスのADとAzure ADの連携を進める一方、2016年に一部導入していたGoogle WorkspaceやiPadなども統合し、アカウントの一元管理を実現しました。この構成は県内では初めての試みで、小規模自治体でもセキュアかつ効率的にICTを活用できる環境を整備する取り組みでした。

しかし、AIを活用した環境を整備しようと様々なソリューションを調査する中で、美波町の方針や規模感に合うサービスはなかなか見つかりませんでした。特に、既存の認証基盤を活かし、職員がスムーズに利用できる仕組みを内製で構築するにはセキュリティ面の課題が大きく、一歩踏み出すことができずにいました。

そんな中、偶然目にした世田谷区役所のAI導入事例の記事で貴社の存在を知り、「ここなら相談できるかもしれない」と直感しました。その場で情報を調べ、電話をかけたのがきっかけです。小規模自治体ゆえに相手にされないのではと不安もありましたが、真摯に話を聞いていただき、プロジェクトとして進められることになったときは、本当にありがたく感じたのを覚えています。

自分たちでやる。と決めた理由

自分たちでやる。と決めた理由をお聞かせください。

大地氏

「人がいないから」です。地方では人口減少が進み、人材を確保するのがますます難しくなっています。美波町は「選ばれる町」として「地方の接続点(ハブ)」を目指しており、デジタル社会資本の整備は非常に重要な課題です。しかし、人材集めに関しては、社会構造的に苦戦を強いられる状況にあります。

その一方で、全てをベンダー任せにしてしまうと、ベンダーロックインのリスクが高まることも懸念されます。そのため、美波町では、コントロールポイントが組織側にあるべきものは可能な限り内製化を進める一方、専門性が求められる部分やベンダーに任せた方が効率的な部分については適切に委託する、という形でデジタル整備を進めています。

今回のプロジェクトでは、コントロールポイントを「美波町が保有する認証基盤」と定め、クラウドネイティブ様には「並走支援」を依頼しました。基本的な部分は情報システム担当がハンズオンで実装し、デジタル化担当がデバッグや追加機能の実装を分担する形を取りました。また、Microsoft Loopを活用して設定内容のドキュメントを整備しました。

譽田氏

内製化で気をつけていることとして、属人化やブラックボックス化を防ぐために、ドキュメントやマニュアルの整備を徹底し、職員が学びながら成長できる環境づくりにも力を入れています。ただ、理想通りに進められていない部分もまだまだ多く、これからの課題でもあります。

この記事をきっかけに、美波町のデジタル整備に関わりたいと思ってくださる企業や人材と出会えることを願っています。一緒にこの町を未来へ繋げる取り組みを進められたら、大変嬉しく思います。

内製によるメリット:柔軟な対応と進化

「職員がより効率的に業務を遂行できる環境を作りたい」「気軽に活用できるチャットボット環境を整えたい」という思いから、チャットボット機能の実装をメインに、他の機能の自装も行いました。具体的にはプロンプト集の作成とPDF読み込み・要約機能の導入です。

プロンプト集にTeams用のURLスキームを掲載し、リンクをクリックするだけでチャットに質問の下書きが挿入される手軽さを実現しました。これにより、ユーザーがテキストで質問を入力する手間がなくなり、職員がより気軽に迅速に生成AIへ質問をできる環境を構築しました。

またTeamsのチャットにPDFファイルを添付するだけで、AIがその内容を要約してくれる機能を実装しました。これにより、大量の文書を短時間で理解できるようになり、業務負担が軽減されます。具体的には、Teams上にPDFファイルを添付し、その上で質問をBotへメンションします。するとLogic Appsが自動的に起動し、PDFをAzure Document Intelligenceに渡してOCR(光学文字認識)処理を行います。その結果を受け取ったLogic Appsは、コンテンツと質問内容を一緒にAzure OpenAIに送信します。最終的に、Logic AppsがAzure OpenAIからの回答を受け取り、それをTeamsのチャットに投稿します。この一連の流れによって、PDF内の情報を迅速かつ正確に要約することが可能になります。

チャットボットの導入を行う自治体や企業は一般的になりつつありますが、美波町さんでは、プロンプト集の可視化やPDF読み込み・要約もクラウドネイティブ伴走のもと、自ら企画され構築しました。これらの付随機能を企画された(思いつかれた)背景には普段の業務状況も関係しているのでしょうか。

大地氏

プロンプト集の可視化を導入した背景には、情報の民主化を進めたいという想いがありました。職員ごとにICTリテラシーの差はありますが、AIの出力は指示内容次第で大きく変わるため、AIを活用することで職員が一時的に高いアウトプットを得られる仕組みを作ることが重要だと考えました。有用なプロンプトを全職員が共有できる仕組みを整備することで、行政業務全体の効率化と効果的な利用を目指しました。

PDFやエクセルの読み込み機能については、コストを抑えるため必要なファイルだけをスポットで読み込む仕様としました。また、将来的なオンラインストレージの機能向上を見越し、公文書や通知文書など膨大な情報を効率的に処理できる仕組みを整えました。特に、重要部分の抜粋や対応策の提示、アンケートの自由記入回答の分類・集計などでは、AIの力を活用して作業時間を大幅に削減する効果を実感しました。

さらに、大規模災害時の図上訓練で試験的にAIを活用したところ、被害状況の集約や迅速な対応検討に役立つ可能性があることも分かりました。また、複数の性格を持たせたAIを構築し、一つのインプットに対して多様な視点から回答を得る仕組みも試みています。例えば、政策案をAIにインプットすることで、様々な視点から意見を得ることが可能です。議会のロールプレイを行う場合、議員ごとのマニフェストや政策スタンスをAIに設定することで、より現実に近い議論や答弁シミュレーションが実現します。この仕組みは、議会答弁の準備や政策立案の効率化に役立つだけでなく、多角的な意見を取り入れるための手段としても有効だと考えています。

内製のメリットは、プロジェクトの進行中でも改良や機能追加が柔軟に行える点です。実際に、途中でChatGPT-4oが公開された際、すぐにチャットボットに組み込み対応しました。このように、地方自治体として限られた人材を補う仕組みを模索しながら、柔軟に運用を進めています。

実際のチャットボットの様子(カレンちゃん)

こうした様々な工夫のもと開発された「カレンちゃん」。このチャットボットは複数の性格と役割を持ち、まるで複数の人間と対話しているかのような感覚を提供します。

チャットボット「カレンちゃん」のTeams画面 - 議会審議のシミュレーション
チャットボット「カレンちゃん」のTeams画面 - 複数の視点からの回答

通常業務へのサポートはもちろん、政策立案や議会運営などの高度な業務支援にも有効であることが期待できます。

セキュリティ面の課題と解決策

セキュリティ面の課題が大きく、とのことでしたが、具体的には貴庁にとって何がセキュリティ面で懸念であり、その課題を具体的にどう乗り越えられたのでしょうか。

譽田氏

美波町にとってセキュリティ面での最大の懸念は、自治体が扱う行政データの漏洩リスクや、AI活用時にデータが外部のAIモデルに学習される可能性でした。特に、AI導入ではデータの取り扱いを完全に管理し、安全性を確保する仕組みが求められました。

この課題を解決するために、Azure OpenAIを活用し、データを美波町のMicrosoft Entra ID(旧Azure AD)を基盤としたテナント内で処理する構成を採用しました。Azure OpenAIの「データが外部のAIモデルに学習されない」という特性を活かしつつ、条件付きアクセスやIP制限を適用することで、不正アクセスを防ぎ、安全でセキュアな環境を実現しました。

内製化においては、属人化やブラックボックス化のリスクが課題でしたが、Microsoft Loopを活用してすべての設定や運用手順をドキュメント化することで、職員間での情報共有を徹底しました。この仕組みにより、担当者が変わってもスムーズな引き継ぎが可能となり、組織全体での運用体制を強化しています。

プロジェクトの進行では、クラウドネイティブ社の技術力とサポートが大きな助けとなりました。自治体の特性に即した設計支援や、職員が主体的に関わりながら取り組めるようなハンズオンサポートを提供いただいたことで、効率的かつスムーズにプロジェクトを進めることができました。

また、コスト面の課題については、既存のインフラを最大限活用し、新規投資を抑えながら必要な機能を段階的に拡張できる柔軟な設計を採用しました。これらの取り組みを通じて、美波町はセキュリティと柔軟性を両立したAI活用環境を構築し、行政サービスの向上と業務効率化に向けた基盤を整えることができたと感じています。

アンケート結果について

チャットボット導入後の業務効率について職員にアンケートを実施したところ、すべての回答者が業務改善の可能性を感じていることがわかりました。

  • 大幅に改善できそう:約62.5%
  • ある程度改善できそう:約37.5%
  • あまり変わらなさそう:0%
  • むしろ効率が低下しそう:0%

この結果から、AIの導入による業務効率化に対する職員の期待が高いことが確認できました。今後は、実際の運用を通じてこの期待に応えるよう、継続的な改善を進めていく予定です。

導入後の職員の方の反響

担当者A 制度調査を担当しており、ChatGPTを使って根拠法令を確認しています。例えば、台帳システムの更新に関する質問を投げかけ、森林法の関連条文についての回答を得ることで、必要な情報に迅速にアクセスできるようになり、大変便利に感じています。また、住民向けの通知文作成時にも、特にあいさつ文の作成において効果的です。

担当者B 担当している法令に関する調査で、ChatGPTを活用しています。得られた回答を基にWEBや書籍で調べる作業がスムーズになり、特に検索方法が不明な際に非常に役立っています。会話の中で提供されるキーワードや補足情報が、調査を効率化する助けになっています。

担当者C Excelの関数やVBAの作成時にChatGPTを活用しています。従来、書籍やインターネットで調べるのに時間がかかっていたのですが、ChatGPTから得られるコピペ可能なアウトプットにより、作業効率が大幅に向上しました。特に、自分では作成が難しかったマクロを組むことができ、自動化や業務効率化が進んでいると実感しています。

担当者D 議会や官公庁向けの文書作成を担当しており、ChatGPTを使って文章の校正を行っています。特に誤字脱字の指摘や、文章の構成における改善点に役立っています。

担当者E 町の計画づくりを担当しており、各課からの意見を集約する文章作成にChatGPTを活用しています。計画を項目ごとに整理する作業が迅速に進み、また既存計画の調整作業にも役立っています。ただし、プロンプトの設計が難しいと感じることもあり、適切に質問をすることでより正確な回答が得られると実感しています。また、Teams上でのマークダウン形式の出力に変換作業が必要である点については改善の余地があると感じています。

上記以外にも、会議メモから議事録を作成したり、アンケート調査の自由記入回答をカテゴリ分けして有用な意見を抽出したり、議会の一般質問に対する回答文の校正にも活用されています。

AI勉強会の実施

また最近では庁内向けにAI勉強会を実施されたようですね。

大地氏

内製化を進める中で、職員間の情報共有とスキル向上を目的として、初心者向けのAI勉強会を開催しました。Microsoft Loopで作成したマニュアルをもとに、一般的な使い方を中心に解説し、職員のヒアリングを通じて得た具体的な利用例やプロンプトも共有しました。また、AI活用時にハルシネーションに注意する必要があることなど、利用上の注意事項に関するガイドラインを策定し、その内容についても説明しました。

勉強会では、「有用なプロンプト集があると利用促進につながる」との意見があり、現在Teams内のタブで管理しているプロンプト集のExcelデータをさらに充実させる方向で検討を進めることになりました。こうした職員同士の意見交換を通じて、少しずつではありますが、AI活用の課題を明確にし、具体的な改善につなげることができました。

地方自治体のモデルケースとして

美波町様の事例は、リソースが限られる地方自治体においても、生成AIを活用し、自走できる環境を実現しました。将来的には、さらなる機能追加も視野に入れ、地方行政の効率化と住民サービスの向上に貢献することが期待されます。

リソース不足の環境下での情シス部門(または自治体)へエールや一言あればお聞かせください。

譽田氏

リソースが限られた環境で奮闘されている情シス部門や自治体の皆さん、本当にお疲れ様です。限られた人員や予算の中で課題に向き合うのは決して簡単ではありませんが、だからこそ生まれる柔軟な発想や現場の工夫が、きっと大きな力になると信じています。

私たちも四苦八苦しながら進めてきました。自分たちだけでは難しいことも多く、周囲の助けに支えられてようやく形にできた経験があります。小さな成功を積み重ねることで、やがて大きな成果に繋がると実感しています。

大切なのは、止まらずに一歩ずつ進むことです。リソース不足だからこそ、チームの協力が大きな力になります。私たちも同じ目線で歩んでいますので、これからも一緒に頑張っていきましょう!

クラウドネイティブへ一言

クラウドネイティブへ一言お願いします。

大地氏

私たちはエンジニア経験が全くない状態で、以前は建設課や福祉課といった全く異なる分野の業務から異動し、現在の担当を務めています。参考書を片手に奮闘しながら、親切なベンダーの担当者の方々や、勉強会で出会ったコミュニティの皆さんに助けていただきつつ、情報システム管理や行政のデジタル化に取り組んでいるのが現状です。

そんな私たちの状況を丁寧に理解していただき、要件がズレないように進捗を管理しつつ、ハンズオン形式で実践的なサポートをしてくださったことに、心から感謝しています。特にSlackでの迅速なレスポンスや、必要なタイミングで実施いただいたオンラインハンズオンは、日々直面する課題を解決する上で大変助かりました。

委託で構築を依頼する方が効率的だったかもしれませんが、それ以上に私たちと一緒に内製に取り組むという形を選んでくださったことで、最終的に自分たちの手で実現できたという大きな成果を得ることができました。この経験は、自治体の中で取り組む新たな一歩として、非常に価値のあるものでした。

クラウドネイティブの皆さんの柔軟で親身な対応があったからこそ、ここまで来ることができました。本当にありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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